PEL〜ポケモン調査隊連盟〜第七話
「う〜んこんなもんかな・・・。」
小さめのポーチを持ち上げ、ポンポンと叩きながら、カナリアが呟いた。
「先輩!まだですか!?もう後一時間半しかないですよ!?」
「うわっごめん、今行く!!」
呼び声に驚きながら、カナリアは即座にポーチを体に掛けた。
「いってらっしゃいませでございますです。」
出迎えに、ギギギアルがやってきた。
ちなみにこの人は、プラグニア・プログラマ。
プログラムだかプログラミングだか知らないけど、やたら片言で、敬語も単語もおかしい人。
まぁ、PELでは伝達係みたいな人。
「行ってくるね、弟君!」
フロムに向かって手を振りながら、元気良く、カナリア先輩が声を張り上げた。
「あぁ、はいっす・・・。」
元気のないおどろおどろしい口調で、フロムが返事を返した。
「そんじゃ、行きますか!」
ゴーグルを掛け直して、四つん這いになったカナリア先輩の上に乗る。
「行くよ・・・。」
いつもの猫撫で声からは想像も出来ない、綺麗な低音ボイスを吐いて、カナリア先輩は、地面を強く蹴って、風を切りながら走り出した。
「先輩、全力で走ってどのくらいかかりますか?」
「限界までで言うと45分かな。実際、そんな長く走り続けられるかは、体力が持つかどうかだけど。」「やっぱそんくらいですかね・・・。」
時間なんかに抗える気はしなかったが、何を隠そう緊急事態。
避難勧告が出してあろうが、焦るものは焦る。
もし誰かが隕石の落下の衝撃に巻き込まれてしまったらと思うと、ゾッとする。
気を紛らわせる為に、何か会話でもしようか、とは思ったが、どうしても、カナリア先輩の過去について聞きたくなるので、
「はぁ〜・・・。」
と、溜め息をついた。
「どったのユノちゃん。悩み事なら相談乗るよー?走りながらでも結構喋れるおー。」
なんだか適当な喋り方になってないか?とは思いつつ、その気負いしない声色に、安心を重ねて私の音を奏でた。
「私、レズじゃないですから。」
「・・・・・・・・・。」
「え、先輩?あの、ちょっ、なんで黙るんですか!?ちょっと、雰囲気ですからね!?場を和ませるって言う、その・・・!」
安心は不安へと音色を変えた。なんでだ!私はまだキャラ崩壊したくない!主人公だよ!?小説での基本的なナレーションと言う欠かせない存在なんだよ!?キャラ崩壊した時点で小説として終わるってことだ!!変人のナレーションとか怖いから!!だから頼む先輩−−
「あの・・・・・た、たまにはその・・・百合もいいかな・・・なんて・・・。」
何を抜かしとるんだ天使のようであんたがレズか頬を染めるなカナリア先輩ィィィィ!!!
怖い!作者怖い!!私を雁字搦めで恐怖のどん底に陥れるつもりかァァァァ!!!
「なんてねっ!!へへぇん、どう?焦った?」
その言葉で、不安の音色は安心へと譜面を変えた。
「あはっ・・・。あはは!びっっくりしましたよ・・・・・はは・・・。」
胸を撫で下ろすとはこのことか。
本当に良かった。
「いつか、話すね・・・。」
「!」
切なそうに、風に言葉を流した先輩の一言で、私はこの言葉が何を指しているのかを悟った。
「・・・・・はい。」
先輩は言の葉だけでなく、私の中のもやもやも流してくれた。
額に掛けてあるゴーグルを眼前にかざして、すぅっと息をする。
「すみません先輩。被害者は出しません。焦らないでいきましょう。」
「オッケ!」
大丈夫。
そう心に言い聞かせて、前をぐっと見る。視界はクリアだ。
被害者なんて出させない−−
To be contined.