トリニティア第一話(お試し読み)

世界は今日も当たり前のように回る。

夜眠れば朝が来て、朝眠れば陽は落ちていて、夕時眠れば月が見えた。

・・・そんなお伽話を、誰もが聞いたことがある。





「ただいま。」

「おう。もう食事の時間だぜ?いい加減時計持てよ。」

「げ、またやっちまった。やっぱ武器費削って時計買った方がいいか?」

「たりめーだろ?今時時計持ってない奴なんて、世界に数えるほどしかいないぜ?」



『トリニティア』。
この世界がそう呼ばれている所以(ゆえん)はその名前にこそ秘められている。

この世界に『時間』はない。いや、厳密に言えば、時間そのものがあっても、その『感覚』がないと言うべきか。

この世界は、『サン』と言う星が放つ光と熱で存在を保っている。
サンは、トリニティアの他に存在する星にもその恵みを与える、すべての中心と言われる存在だ。
その中心と呼ばれる星の周りを、トリニティア含め、恵みを受けた星達は回るのだから、その論は絶対的正論なんだろうな。

星達は、自転と呼ばれる、星自らが回る性質を持ち、更に公転と呼ばれる、サンの周りを回る性質も持つ。

このトリニティアを除いては。

トリニティアは、『自転をしない』。
その為、光の当たる場所と当たらない場所ができる。だが、公転により、朝、夕、夜の季節が一定期間続く。
それぞれの季節を、朝季、夕季、夜季と呼び、これを『トリニティアの三季論』と呼ぶ。

だんだんと季節が移り変わる様は美しいが、正直過ごしにくい。
睡眠時間などを間違えると一気に時間感覚がズレる。
その為この世界では時計が最も重要な役割を果たす道具になる。
月に一度、世界中の時計を、原子時計の時間に針を合わせるという『時間点検』が行われるほどだ。

そして、『トリニティアの三季論』から、この世界は、三位一体の意味を持つ言葉、『トリニティ』をもじった名前を付けられた。それがトリニティア。

ついでに言うとこの世界は、科学技術が発展していて、剣や銃と言った武器が次々開発されている。
今じゃポケモンは、技に使うエネルギーを武器に充填して戦うのが主流になった。
その充填の為の道具は『コア』と呼ばれ、コアは自らの体を守ってくれるシールドの機能がついていたりと、至れり尽くせり。更に、生活用のコアも開発されたりした。
武器の開発が進んだ理由もちゃんとある。

野生のポケモンは、トリニティアに存在する特例の気体、『障気』に当てられると、自我を保てなくなり、街に暮らす俺達を襲う。
その防衛策として、野生のポケモン狩りの為に作られた組織を『ギルド』と呼ぶ。ギルドのポケモンは、武器や、障気を止めるコアを支給される。この野生のポケモンを止める為に、武器やコアの開発は発展していった。

障気は、まだあまり解明されていない特殊な気体か何かのようで、酸素等に紛れて潜んでいるらしい。特に障気が多い場所等に行かなければあまり害はないらしいが、障気の吹き溜まりがあったり、障気対策のコアも開発されたりなど、時として脅威でもあるらしい。

とにかく、時計やコアや障気が溢れている、時間の偏った世界なわけだ。


さて、そんなわけで、俺はこの、メンバーが五人しかいない小さなギルド、『ブレイブ』で暮らしているわけ。

俺の名前は、アッシュ。ちなみに種族はヒトカゲ。このギルドで暮らしてもう二年になるかな。


重い足を引きずり、小さな食卓への扉を開ける。

「遅い!あんた、あたしの作った特製クリームシチューの暖かさを無駄にする気!?」

この騒がしいモココの名は、メープル。このギルドの発端に大きく関わった人物だが、とにかく勝ち気で偉そうな上に女らしさがない性格の悪さ。そんなくせして、料理は上手く、性格さえ良ければ嫁に是非とももらいたいくらい美味い。なんでも出来るが無茶が多いはちゃめちゃな奴だ。

「悪かったよ。」

美味い飯が冷めたのは自分のせいだ。そりゃ素直に謝る。だが。

「てゆうか、ね!!あんたが時計持たないからよね!!そうよ、馬鹿で傲慢でバトル馬鹿でうましかなあんたなんか、飯抜きよ、ね!!」

ほらきた。

「なんだよその言い草。ちゃんと謝ったろ?」

「何度も何度もやられたらそりゃ怒るわよバーカ!!」

俺の記憶では一回目から怒ってた気がするが、気のせいだったろうか。

「んなことしてないでさっさと食べようぜ。」

そうやって俺を急かすのは、さっき玄関まで俺を迎えに来ていた親友のリオル、ダストだ。見た目に反して結構適当、というか大雑把な性格で、他人事にはあまり首を突っ込まないタイプ。

「・・・いただきます。」

呆れ顔で睨んできながら手を合わせる様は悪寒しかしない。とにかく食事に手をつける。

「いただきまーす。うん、美味い。」

嘘でもないし機嫌を取りに行った訳でもない。けどメープルは誇らしげに、
「もぉー、褒めんなよ照れんじゃん!!」
と一言。どう見ても照れてないが、鼻高々で機嫌は直ったらしい。ラッキーだ。

「それにしてもさー・・・。」

そう口にしたのはギルドメンバーの一人のジグサグマ、ラット。臆病ではあるが、実力はある優しい心の持ち主。頭の回転も良く、ギルドの要になる器用な奴。

「最近野生のポケモンの暴走が多くない?こないだなんて、こんな小さなギルドに政府が正規依頼として『魔狩り』を頼んで来たぐらいだよ。」

『魔狩り』とは、野生のポケモンを狩ること。勿論、殺生ではなく、撃退や鎮静が目的。

「巷で噂になってるのは、『夜季』は障気が多くなるって奴ね。」

噂話の件を切り出したのは、チョロネコのセラ。冷静で科学力が高く、このギルドを率いる器を持っている。

「ん?でもまだこの地域は夕季じゃん。夜季まではまだ先だよ?」

「政府のある帝都はもうすぐ夜季に変わるみたいだからね。じきにここも夜季になるよ。まぁ、二週間は後だろうけどね。」

「つくづく思うけどさ、ホント時間差あるよな。てか、時差ボケか?」

「そんな話じゃなくて!」

セラが話を元に戻した。

「要するに、障気と夜季に何か関連性があるかもしれないってこと!」

「はぁ・・・そんでどうすんだよ?」

「丁度、帝都に行く口実もあるじゃない。この仮説を証明して、ギルドの名を上げるのよ!」

「おぉっ!!なるほど!」

「じゃあ、明日、正規依頼を受けに帝都へ行くわよ!!武器の点検忘れずにね!!」

「うっす!」





ギルドの名を上げる。
たったそれだけの話のはずだった。
それがまさかとんでもない旅路の始まりだったなんて、誰も思わなかっただろう。

これは、回らない世界で明日を待つ物語。





あとがき(え
一話のみの小説お試し読み、いかがでしたでしょうか?
やるとしたら漫画です。
武器やバトルシーンの描写には漫画が一番です。

いやぁ、テイルズのおかげで出た案かも知れません((裂
世界観がこんなに描けたのは初めてかもです。
・・・新ネタ出せば出す度他の作品が描けなくなると思って出してなかったんですが、やっちまうとこうも満足出来るもんが出来ちまいましたよ畜生!
まぁ自己満足ですがね。

一番悩んだのは主人公の名前です(え